この「毒まんじゅうを食わない」というルールは、ARSが掲げる経営理念の第一項目、「Laughter to Members 社員に笑顔を」を、単なるスローガンから生きた行動規範へと変えるための、最初の具体的な一歩だった。自分たちの価値を正当に評価してくれない相手と仕事をすることで、社員の笑顔が生まれるだろうか。答えは明白だ。社員の尊厳と誇りを、目先の売上よりも優先する。その断固たる姿勢をトップが示すことで初めて、「社員に笑顔を」という理念に血が通い始める。
これにより、クライアントの質が劇的に変化する。単にコスト削減だけを求める取引相手ではなく、共に課題を解決し、未来を創造しようとする「パートナー」が集まり始める。そして、このような信頼と尊敬に基づいた関係性こそが、ARSの経営理念の第二項目である「Impression to Client 顧客に感動を」を実現するための土壌となる。顧客を「満足」させるだけでなく、その期待を超える「感動」を提供するには、まず顧客自身がこちらの価値を認めていなければ不可能だ。「毒まんじゅう」の拒絶は、社員の誇りを守る行為であると同時に、最高のサービスを提供できる環境を自ら作り出す、巧みな一手だったのである。